…
「あれ!?どうしよ、
切符が出てこないっ…」
「うん、出口だからね。」
遼平君はあっさりとそう言って、
自動改札で立ち止まりかけた私の手を引いた。
・・・はっ、恥ずかしい~~っ、
地味に、めちゃくちゃ恥ずかしい~~!!
「人が多いから、止まらないでね。」
私と手を繋いだまま、
ごった返す土曜日の夜の駅前を
縫うようにして歩いていく。
あまりにも冷静なその声に、
いい加減、私のボケに
愛想をつかしたのかもしれない・・・!
と、
おののきながら見上げると、
遼平君は声を殺して笑っていた。
今日はずっと、そんな調子だ。
私は今日、
3回・転びかけ、
5回・赤信号で渡ろうとし、
6回・バッグを忘れかけた。
二段重ねのアイスクリームは
落っことしたし、
ケーキを食べたら
フォークを落とした。
そのたびに、遼平君は面白がって笑う。
「一日中、同じ道を
行ったり来たりするものなーんだ?」
「・・・電車?」
「答え:琴子ちゃん」
「見るたびに、赤くなったり
青くなったりしてるものなーんだ?」
「・・・信号機。」
「答え:琴子ちゃん」
もうっ!私はシュウ君とちがうんだよ!!
とふくれて見せても、
遼平君はちっとも悪びれない。
むしろそんな私を、
とても楽しそうにからかって笑う。
今もそんな風にして、
人通りから外れて立ち止まると
優しい目をして、私の頭を撫でた。
「・・・無理することないのに。」
なにが?と明るく返そうとして、
かけられた声のあたたかさに
思いがけずのどが詰まる。


