「知らないじゃない、それでなんで、
亮介が停学になるの!?」

「うるさい。」

心底めんどくさそうに、
やっとこっちに向き直る。


「いいんだよ、
どっちにしろ、バレたか
バレてないかの違いでしかないだろ。

ちゃんと俺の分の、罰なんだよ。」


「亮介。」 


明らかにイラついて
落ち着きのない亮介に構わず、
真正面から見つめる。


「亮介。

言いたい事があるんじゃないの?
言いかけたことが、あるんでしょう?」

「―――。」

意地でもこちらを見ようとしない亮介は、
眉間に皺を寄せたまま、目の前で
煙草を取り出して火をつける。


私は、想像する。

煙が肺に入って、

胸を煙らせ、
脳を煙らせ、
思考が真っ白く覆われ、

やがて霧散する。


言葉ごと、心ごと―――


亮介は、口数が少なくなった。

あんなにおしゃべりだったくせに、
煙草をくわえて黙り込む。

言いたい事を呑み込んで、
外に出さずに散らせてしまう。


考えるのをやめたいから。
気にしたくないから。


不安になりたく、ないから。


「・・・なにか、言ってよ。」


亮介はひとつ、
ゆっくりと煙を吐き出すと、

にやっと笑って、私の目を見た。


「じゃあまたね、コトコちゃん。」


シュウ君の口真似で言い捨てて、

少しだけ開けたドアの隙間を
スルッと抜けて、中に入る。


ガチャンと、

鍵を掛ける音が聞こえた。