私は遼平君の膝の辺りに手を乗せると、
正面からじーっと観察した。

こんなに心置きなく眺められるチャンスは、
そうそうない。


「琴子ちゃんは、なんでこれを選んだの?
 半端に古い作品だよね。」

伏せられた目を見つめていたら、
遼平君がそのまま口を開いた。

「ん?雑誌のインタビューで
ジン君が好きだって言ってたから。」

「ふーん。」


ちょうど映画が終わってしまい、
遼平君は体を起こすと、手を伸ばして
私をどかさずにDVDを取り出した。

彼の腕が目の前をかすめて
私は慌てて体をずらしたけれど、
遼平君はその動きに、
目を動かす事さえしない。


「ねえ、遼平君は好きな女優とかいないの?」

「うーん、特には。」

「じゃあ好みの顔は?」

「さあ?なんでも。」

「じゃあ、好きな映画は?本は?
ドラマは?音楽は?スポーツは?
何かしたいこととかは?」

思いつくまま矢継ぎ早に問いかけると
遼平君はちょっと楽しそうに苦笑した。


「特にないなあ。」


(・・・・・・絶句。)


「・・・なんでそんなに
枯れてるの・・・。」

「あはははは。枯れてるとは失礼な。」


とても屈託なく笑っているけれど。


この人はほんとに、

―――欲が、ない。




欲望で心を掻き乱される事はないけれど、

何かに心を動かされることも、ない。

いつから?
初めから?
ほんとに?


「そうだ、絵は!?絵を描くのは好き!?」

「え?って、ダジャレじゃなくて(笑)」

つまらない冗談じゃ、
今更はぐらかされたりしない私は、

思い出した記憶に
夢中になってはしゃいだ。