慌てて拾い上げようとした手を
そっと掴んで止め、カップを取り上げる。


「大丈夫?どこにもかかってない?」

キツイ響きにならないよう
注意して声をかけながら、
目だけで素早く琴子の様子を確認する。

とりあえずは異常が見当たらない事に安堵し、
床に伸ばそうとする琴子の手を
とどめるように掴んで、瞳を覗き込む。

「なにも気にすることないよ。
割れてもないし、拭けば済む事だから。
ちょっと待ってて。」

真っ青な顔でうろたえる琴子を残して
カップを流しに持っていく。

濡らした布巾を手に戻ってみると、

琴子は泣きだしそうな顔で、
自分のハンカチを使って紅茶を拭いていた。

「だめだよ、琴子ちゃん。火傷する。」


かろうじて花柄だとわかるハンカチは、
水たまりを吸い込んで
完全に色が変わってしまっている。

乾いた布では紅茶の熱が冷めずに、
触れた指先が赤くなっている。

それでも止めようとしない琴子の手を、

少し無理に掴んで顔をのぞきこむ。


「―――琴子ちゃん」


その瞬間
琴子は驚いて手を振り払い、

逃げるようにして
キッチンに駆け込んだ。



・・・ふうん。


怯えること、

   ないのに。