道端に、遼平と琴子の小さな影が伸びる。

座り込んで動かない琴子に、
遼平は困り切って立ち尽くす。

「足が痛い。おうち帰る」

「帰る?あっちが帰るなの?」

「うん。帰る」

「えー、だから琴子には無理だって言ったのに。
じゃあ今日はおれも、あきらめるよ。家出。
琴子、あそこのベンチまで行ったら休んでいいよ。」

「いい、ここで休む。」

「えーーー、しょうがないなあ、もう」

リュックを前に背負い直し、
琴子に背を向けてしゃがみこむ。

うれしそうに飛びつく琴子を、
よろめきながら背負ってやる。

「ねえ遼平君、これ、何の音?」

「音?なんか聞こえる?」

「うん。ずーっとずーっと。」

「んー、なんだろ?琴子、結構へんなこと知らないからなあ」

「ほら、これ、これ」

「えーー?」

「これーーっっ」

「ウルさ・・・っ琴子の声しか聞こえないって」



遼平君の、鼓動が聞こえた。




「・・・目、さめた?」

言われてぼんやり目を開けると、
遼平君の背中が目の前にあった。

「車に乗るから、寝てていいよ」

遼平君に背負われて揺れながら、
何だか胸がいっぱいになってしまった。


「・・・やさしいなあ。

遼平君がやさしいと、すごくうれしい。」


「亮介でも優しいだろ」

違う。


遼平君じゃないとだめなの

遼平君じゃないなら、誰でもおなじなの




「・・・知らなかった?」

遼平君は答えない。

「遼平君?」

呼びかけても振り向かない。


「・・・寝てなって。」

「はーい。」


だけど、私にはわかってしまった。

背中にそっと耳を押し当てる。




遼平君の、鼓動が聞こえた。



【終】