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「琴子、琴子・・・!」

ささやくような呼びかけに目を開けると、
遼平君がしゃがみ込んで私の顔をのぞきこんでいた。

ほっと表情が緩むのを見て、私もうれしくなる。

「・・・待ってたよ、遼平君。」

「待ってた・・・?」

「よかった、すぐに来てくれて。
一緒に行かないのかって、何度も梶君が」

「・・・梶君・・・って、」

遼平君は私につられて笑いかけ、

それから、

初めて自分が今いる場所に気が付いたように、

呆然と辺りを見回した。


「――ここ、は、―― いや、・・・」



「へへ。どうしても残るって、頑張ったんだから。・・・けど、」


―――梶君とおかあさんは、先に行っちゃったんだよ。


立ち上がろうとしてふらつく私を、遼平君が支える。

だけど、とても戸惑っている。

とっさに差し出した手が、迷っている。
寄せられた眉根が、困って、全力で計算して何かをはかっている。


――だけど。だめだよ、行かせない。


私はぎゅっと、その手をつかむ。

「ふたりのことは、ほっとこうよ。
私たちはもう、好きな所に行けるんだよ。」


彼の耳に顔を寄せて、言い聞かせるように囁く。


「わたしを「ひとり」にしないで。」


遼平君を、ひとりにはさせない。



それから、とっておきの甘えたカオで。

「遼平君、足が痛い。おうちに帰りたい。」

歩けないよ、と口を尖らせた。