ゆっくり体を起こすと、あちこちがズキズキと痛んだ。

よく見ればチャイムを押した部屋も、隣りの部屋も、表札が入ってなかった。
この団地自体、住んでる人がほとんどいないのだろう。

もっと上の階へ行ってみようかと立ち上がり、
ガクンとその場に崩れ落ちた。

痛みよりも、膝が立たないことに焦る。

たった数段の階段を踏み外して、
足を怪我したらしい。

仕方がないのでテープを外し、
這うように手をついて階段を上がっていると、
下の入り口の方で足音がした。

ギクッとして、息を殺す。

住人なら多分、迷いなく歩いてくる。

コンクリを擦る、かすかな足音が止んで数秒、
誰かが暗がりの中で、様子をうかがっている気配がした。

捜す気になれば、上がってくるだろう。


ここはまだ、2階の踊り場の手前だ。
じっとして動かず、立ち去るのを待つ。

その時、聞き慣れた着信音が鳴って、
心臓が止まるかと思った。

一瞬、自分のミスかと悔やんで、
携帯はタカハシさんが持っている事を思い出す。

「・・・はいはい?
やーっと出てくれた、って俺の携帯じゃねえけど。
メール、読んでくれた?」

聞こえてくる話に、動悸が激しくなる。

「・・・いるよ、いるいる。ほんとだって」

タカハシさんの声が遠ざかり、
もっと聞こうと追いかけたくなる気持ちを抑えて
そろそろと階段を這い上がる。

遼平君は、どうするのだろうか。


タカハシさんに関わっちゃいけない。


遼平君を、止めなくちゃ。

だけど、どうやって。