「かわいそうに」

その同情は、やさしく甘く響いて、流されてしまいたくなる

不幸な子としての役割を引き受けて、媚びて、甘えて、怠惰に――

だけどそこに全身で寄り掛かったとき、
それはただのまやかしでしかなかったと知る。

虚空にただ、倒れこむだけ。

そこには何もない。

だから、負けるわけにはいかないのに。



「可哀相になあ」タカハシさんが笑う。

「無責任よねえ、ほとんど心中みたいなものでしょ」

「車で生活してたって」

「どうせ行き詰まるのが目に見えてたのに」


やめてよ、私の話を勝手に作らないで・・・!



――耳をふさいでくれたのは、遼平君。


大人たちに忘れられて、
片隅に突っ立っていた小さな琴子。

ふわっと耳にぬくもりを感じて、

顔を上げると正面に遼平がいた。

「聞いてもわかんないとでも思ってんのかなあ?
大人って子供をなめすぎてるよな。」

遼平君の声だけが聞こえて、
他には何も聞こえなくて、

冷たかった耳がじんわりとあったまっていくのが心地よくて、

ただただ遼平君を見上げていたら、

不意に彼が、
ひどく傷ついた顔をして
唇をかみしめた、から。


琴子も遼平の耳をふさいであげようと
手を伸ばしたけれど、届かなかった。

遠くを見ていた遼平が、
それに気づいて琴子に笑いかける。

それからゆっくりと口を動かして「だいじょうぶだよ」と言った。


ぼくは、だいじょうぶ


――――

――――――


「・・・う。」

頬の冷たさに、うっすらと目を開ける。

括られたままの手が視界に入って、
最初にほどけばよかったとちょっと思った。