「呼び出すんだよ、あんたも一緒だって言えばきっと来る。
あいつならなんとかしてくれる、あいつなら・・・、
あんたさえいれば、どうにかしてくれるに決まってる・・・
あいつに会って欲しい人がいるんだ。
けど助けてくれって言ってんのに話も聞いてくれなくて、
もう、あんたしか思いつかない。」
いつになく口数が多く早口で、
独り言のようにまくしたてる。
この状況で、私に対して
さほど酷いことをしてるとは思ってないのだろう。
お願い、と両手で拝まれて背筋が寒くなる。
「遼平君を・・・、巻き込まないでっ・・・」
巻き込まないでって・・・、タカハシさんが可笑しそうに笑う。
「可哀相になあ」
車を急に発進させた。
めちゃくちゃなスピードでどこかへ向かう。
車のドアが、シートの背面が、視界いっぱいに迫ってくる。
振り回されて、眩暈が治まらない。
頭が痛い。
震えが止まらない。
本当に吐きたかったけれど、
苦痛ばかりで何も出てこない。
怖い。
自分がどこにいるのか、わからなくなる。
私の居場所が、わからなくなる。
「本当に一緒に行かないのか?琴子」
顔をのぞきこまれて、
かたくなな表情で琴子が頷く。
だって、遼平君がまた来るかもしれないのに。
「じゃあ、誰か家の人が来るまでここにいろよ。
俺達はもう行くから。」
だれかなんて、こないよ。
「来るんだよ!時間がないんだ!」
急に大声を出されて驚いたけれど、
梶君は私に構うことなく階段を駆け下りていく。
真夜中の団地で置き去りにされて、
一人で部屋の前にしゃがみ込んでじっとしていた。
座り込んだコンクリートの床も、
寄りかかった重い扉も冷たくて、あっという間に芯から冷えた。


