土曜日のファストフード店は、家族連れが多かった。
まだ午前中の早い時間なので、空席が目立つ。

亮介を待って、一人で教科書とノートを広げていると、
向かいの席に誰かが座った。

「また遼平待ち?イト子ちゃん」

「・・・タカハシさん」



「うへー、懐かしい。もう全然覚えてねえなあ。」

教科書をぱらぱらとめくりながら、
タカハシさんがおどけてみせる。

「いつも遼平に教えてもらってんの?」

「いえ、・・・なんでも遼平君に頼りっぱなしだから・・・。
もっと色々、自分でできるようにならなくちゃって」

「自立したいんです」と言うと、

タカハシさんは「へー」と、気のない返事の後、
何か思いついたように教科書を閉じた。

「じゃあバイトはどう?よかったら紹介するよ」

「あ、そうですね、いい考え・・・けど、遼平君に聞いてみないと・・・」

唐突な誘いに戸惑って濁すと、
タカハシさんが吹き出した。

「おいおい、遼平に聞いてどうすんの!
自立の第一歩はどうした!?」

「そうなんですけど・・・」

遼平君の友達を悪く思いたくはないけれど、
そこまで信用していいんだろうか。

「そうと決まったら早速行こうよ。
ほら、店が忙しくなる前の方がいいし」

「えっ、いや、あの、今日は・・・」

ひとりでに話が進んでしまって慌てて断ると、
タカハシさんに腕をつかまれ、無理に席を立たされた。

「なーんか、俺のこと信用してなくない?」

軽い口ぶりとは裏腹に、有無を言わせない圧を感じる。
掴んだ手に力を込められ、緊張が腕を伝う。

「あの、失礼な態度だったならごめんなさいっ・・・、
ほんとにごめんなさい、でもまだ決めたわけじゃなくて・・・っ」

おどおどと謝ると、
タカハシさんは手を緩める代わりに視線を絡ませてきた。

「なんかさあ、君ってほんとイライラさせるよね。
君が遼平に避けられるのわかるよ」

「・・・え」

「避けられてるんだろ?」


気をつけた方がいいよ、ことこちゃん。

王様によっては、恥をかかせたって処刑しちゃうかもしれないよ