「気持ち悪い?琴子ちゃん」
運転席でシートベルトを外した遼平君は、
かけたばかりのエンジンを切った。
まだガレージから出てもいないのに、
停車した車の中、吐きそうで答えられない。
「とにかく降りようか。」
返事をする間もなく、シートベルトを外されてしまう。
「平気・・・っ」
慌てて顔を上げたものの、
途端に血の気が引いて視界がチカチカする。
眩暈を覚えて、息を止めた。
遼平君は大きな溜息をひとつ吐くと、
運転席から身を乗り出して、
抱えるように私を抱き寄せた。
「ほ、ほんとに大丈夫っ・・・」
言ってるそばから目の前がぐらりと揺れて、
遼平君の肩に、頭をあずける。
遼平君は黙って、
ただあやすように背中をさする。
やさしくてあたたかい手のひらに、
ガチガチに強張っていた身体が少し緩んで、
ほっと小さく息を吐いた。
絶え間ない頭痛をやり過ごそうと、
固く目を閉じてじっと耐える。
遼平君の、鼓動が聞こえた。


