「・・・で、遼平な。いま呼んでくっから。」

思い出したように言って、
亮介が機嫌よくきびすを返す。


「なに?」

その腕を、つい掴んでいた。


「えっ、あ、えっと、そのっ」

「なんだよ?」

引き止めるようにつかまれた腕を、
亮介が怪訝そうに見つめる。

「あ、その、実はまだ全然、待ち合わせの時間になってなくてっ」

「だから?いいだろ、それくらい」

「だけど・・・」


だけど、彼の気に障ったら、どうしよう。


「コトコ?」

「あの・・・、あのね、」


その時、ガチャッと玄関のドアが開く音がして、
亮介をつかんでいた手が思わず震えた。


「琴子ちゃん?ずいぶん早いね。」

声を聞いただけで、思考が停止する。


何か言いたげな亮介の視線を感じながら、
かまわず用意してきた台詞と笑顔を大急ぎでこしらえると、
私は、顔を上げて玄関の方を向いた。

「こんにちわ、遼平君。
家も近いのに外で待ち合わせも何だかなーと思って、迎えに来ちゃいました。」

本当は、前回も気まずい空気で別れてしまったから、
待っていても来てくれないんじゃないかと思い始めて
じっとしていられなかったのだ。

「俺がこっちにいるって、知ってたの?」

「あっ、マンションの方には行ってなくて、
こっちに遼平君が居なかったら、
あきらめて真っ直ぐ待ち合わせ場所に向かうつもりで、・・・っ」

「そう。
悪いけど俺、ちょっと用があるから。

時間までには戻るけど、
あがって周平と遊んでくれてもいいし。」

「え!?」

そ、

そんなあ・・・

ガッカリして立ち尽くす私には目もくれず、
遼平君は玄関を出て、降りてくる。