「・・・私、

・・・私ね、


遼平君が、・・・」



怖い。




「・・・ことこちゃん・・・?

どうしたの、だいじょうぶ?」


じっと耐えていたシュウ君が、
私の様子をうかがうように、遠慮がちに身じろぎをする。

私は、顔を見られないようにシュウ君の肩を抱え直すと、
かわりに別の言葉を、そこにあてた。


「・・・わからなく、なっちゃった。」

呟いてから体を起こし、シュウ君の目を見て、へへっと笑う。


「きっと、遼平君のことを一番知ってるのは、シュウ君だね。」

私の腕をそっと外したシュウ君に、
今頃なにいってんの、と言われちゃうかと思ったら、

「なにそれ、めっちゃ心外。」
と、けろっとした顔で明るく一蹴された。

「遼平くんが何を好きなのかおれは知らないし
そんなのどうだっていいけど、でも、
ことこちゃんが知ってる遼平くんは絶対、

ことこちゃんが思ってたとおりの人だと思うよ。」


とても思慮深い目をして、

ゆっくりと慎重に言葉を選ぶ。


「大丈夫だよ、ことこちゃん。

ことこちゃんは忘れっぽいから、
きっとまた、忘れちゃってるだけだよ。

ことこちゃんが知らなかったら、
誰が遼平くんのことを知ってるの。

おれじゃないよ、絶対。
ことこちゃんしかいないよ。


いないんだよ、遼平くんには。」



「・・・ほんとう?」

あまりにも一生懸命で断定的な言葉が可愛くて、
からかうように見つめ返すと、

シュウ君は真剣なまなざしで、力強く頷く。

「うん。」


「ありがとう。」

私は、にっこりと笑って
シュウ君の薄いほっぺたをつついた。

「けど忘れっぽいは、ひどいなあ。」

「だって神経衰弱、おれに勝てないじゃん。」

生意気そうに言いながら、
泣かせちゃったと気にして
我慢してつつかれてるのが、また可愛い。


慰めてくれて、ありがとう。