例えばシュウ君が「手がかからない」のは、
遼平君に甘えないから。
シュウ君も、遼平君も、
ひとの気持ちをよく汲み取る。
だとしたらシュウ君が甘えないのは、
そうすることが遼平君に認められる事だと
知っているからじゃないだろうか。
遼平君に甘える人は
きっとたくさんいるのだろうけど、
遼平君はその人たちを、
本当には好きに、ならないんじゃないか、
もしかしたらそれは軽蔑、に近くて――
いつか私も、
限度がすぎれば、
―――煩わしいと、思われるんじゃないだろうか。
いつか?
それとも、最初から・・・?
「琴子ちゃん、まだ回りたいところはある?」
「あ、ううん、もういいや。」
私に向けた視線を出口の方へ動かし、遼平君が小さく息をつく。
人の流れはとどこおって、
出口の辺りでごった返している。
・・・だめだ、ひとりで勝手に考えてたって仕方がないのに。
せっかく遼平君といるんだから、
一緒に過ごせてる今、この時間だけを感じていようと思うのに。
だけどさっきから、
何を話していいのかわからない。
学校のこと?
友達のこと?
そんな、遼平君に何の関係もない話、
「聞いてもしょうがない」って思われる。
好きな音楽とか?
映画とか?
ああ、「特にない」って言われたんだっけ?
だけど、そんなはずはないんだよ。
遼平君自身が気がつかなくても、
好きなもの、
好きなこと、
絶対あるはずなんだ。
一緒にいたら、わかるでしょう?
じれるあまり無意識のうちに、
あいた方の手でポケットの中の感触をなぞっていた。
力を入れすぎて感じた痛みに、手を止める。
・・・私はいつも、
何をあんなにおしゃべりしてたんだろう。
私、遼平君のことを何も知らない。


