と、ギギィ…という木の軋むような音がアルを現実に引き戻した。ばっ、と立ち上がり、剣の柄に手をかける。

船だ。船、といっても人一人乗るのがやっとのような小舟が、ゆっくりと近づいてきている。

そこで、アルは重要なことに気が付いた。小舟の中に、誰かがいる。

「人…?」

なぜ、と思うまもなくアルは動いていた。ザバザバと腰ぐらいまである水をかき分け、小舟に近寄る。

男、だった。いや、少年と呼ぶほうが近いかもしれない。

よく見ると、体のあちこちに傷があった。

まだ新しい血が、船底を生暖かく濡らしている。

金色の髪をした少年は、どうやら意識を失っているようだ。

「よっ、と…」

放って置くわけにもいかず、手を掴んで地面に引きずり上げる。

「んっ…!!」

ちらり、と少年が薄目を開けた。その、深い蒼色の瞳が驚愕に見開かれる。

ザッ、とアルを突き放すようにして距離をとる。そして、腰に履いていた剣を抜き、下段に構える。

「おいおい、助けてもらっておいてそれはないだろう?」

実際、あのまま放って置けばこの先にある滝に落ちておしまい、ジ・エンドだった。

「お前は、…」

ひび割れた声が少年の唇から漏れる。

しかし、最後が掠れて聞き取れない。え?と、問い返すまもなく、少年が突っ込んできた。