ロイは空いている手近なテーブルに乱暴にアルを下ろし、カウンターへと歩み寄った。
ここのマスターは突然の珍客に驚いたようだったが、さすがにこんな大衆酒場を切り盛りしているだけあって、
「ようこそ。何かご注文はお有りかな?」
と訪ねてくる。
「いや、少し聞きたいことがあるんだが、ここの辺りで黒髪長髪の少女を見たという噂を聞かなかったか?」
マスターは眉をひそめ、少し思案する素振りを見せた。
「そのような噂は伺っておりません……。黒髪など、この辺りでは珍しいのでいれば話題になると思うのですが……。お力になれず、申し訳ない。」
「いや、すまなかった。協力、感謝する。」
さてアルを連れて戻ろうかと振り向くと、アルの周りにはちょっとした人だかりができていた。
溜息をついて近づく。
どうせアルの事だから男たちの質問を片っ端から切って捨てているんだろうな、と思いつつ近寄った。
近づくと、アルが屈強(?)な男に腕を回され、酒を勧められているところだった。
男たちはどうやらアルを口説きにかかっているらしい。
確かにこいつがいれば、旅の安全はかなり保証されるだろう。
まぁ、せっかく来たんだしもう少しなら此処にいても大丈夫か……。
しかし、そんな余裕はアルの困り果てた紅玉の瞳とぶつかった瞬間音もなく砕けた。
アルに縋るような視線を向けられた瞬間何故か、そう、何故か思ってしまったのだ。
守らなければ……と。
