それは雨の降る夜だった。
雨をしのぐ為に近くの教会に入った。
その教会は近所に古くからある
伝統的な教会で、かつては多くの人々で
賑わっていた。
今となっては教会に足を運ぶ人は少なくなり、
ぽつぽつと見かけるだけになってしまった。
そんな教会で雨で濡れた自分の服を
乾かそうとしていた。
すると、なにか歌のようなものが聞こえてきた。
気になり奥へ進むと、そこでは20人くらいの
学生達がキリストへの讃歌を歌っている。
その歌声に深く聞き入ってしまった。
いつの間にか眠っていた。
誰かに肩をたたかれ目を覚ました。
目の前にはさっき歌っていた学生が一人
不安げにこちらを見つめていた。
「大丈夫ですか?」
その学生は問いかけた。
「大丈夫です」
とっさに答えた。
身長は低く、髪はセミロングの
いかにもインドアで頑張ってきたといわんばかりの色白な肌の人だった。
一目見た瞬間に心惹かれていた。
だが、だんだんその場にいることが
恥ずかしくなりとうとう走って逃げ出して
しまっていた。
自分のアパートにつきソファに腰を下ろす。
大学生になり一人暮らしを始めたばかりなためかまだ新しいアパートには違和感がある。
慣れないコーヒーを飲みながら教会での
出来事を思い出す。
そして、右手に何か握っていることに気づく。
なんと右手にはみたことのない柄のハンカチがあった。
自分の頭の中で何度も誰のものなのかを
考える。
そして、10分ほど考えた頃、ようやく
思い出した。
「あの学生のだ!」
返しにいかなければと思いつつ眠りについてしまった。