広い土が広がる校庭にいくつもの花びらがひらりひらりと舞い落ちる。

本当にここの花々は好きだ。
校庭の周りを縁取るように薄く色づいた桜の束が青い空に高々と生える。






私は晴れて花崎中学校の中学一年生となった。


私たちの入学を、花々が歓迎しているように見えるほどだった。

嬉しかった。
新しい、中学校生活が。


小学校で嫌な思い出がある私は、ずっと中学校の暮らしを待ち遠しく思っていたからである。



古傷が痛むのを覚え、軽く唇を噛む。


でも、やっと新しく清々しく変われる季節がやってきたのだ。






私は大きく息を吸い込んだ。
春の温かい匂いが酸素とともに身体に入ってくる。
そしてゆっくりはく。


何故だか今日はとても気分が良かった。

解放感からなのか、大好きな花に囲まれているからなのか。



私は鞄を持ち直し、校舎まで歩き出した。











1年5組。

私が入るクラスである。

この学校はクラス替えがないため、3年間お世話になるクラスだ。



教室のドアを開けると、もうほとんど人が集まっていた。

急いで席を探し、着く。





(知らない人…ばっかり)

私はこの地区の小学校出身じゃない私はなかなか周りに溶け込めない。


小学校の時のこともあってあまり話しかける勇気も出ない。




「……ねえ」

私がひとり俯いていると、周りの子たちが私に声をかけた。

「ねえ、あなたこの辺の学校じゃないよね?」

「えー、どこの学校なの?」

女の子たちは口々に話し出す。


いきなりこんなに話しかけると、嬉しくなる。

ひとつひとつ、私は笑顔で返した。

「よろしくね〜」

「うん、こちらこそ…」

無事に挨拶できた。

中学校初の友達に嬉しさで顔が熱くなる。


良かった。
順調に過ごせると、いいな。






私はなるべく笑顔で接しようと心がけた。





入学からしばらく経って、私はクラスの全員の人仲良くなった。

ちゃんと話せる友達がいて、男子ともそこそこ仲良くなったと思う。

毎日がとても楽しかった。



そんなある日―――。



「あれ?」

窓の端の方に女の子が一人、いた。

見たことない、知らない子だった。


ずっと休んでたのかな?
このクラスの人は全員制覇したと思ってたのに…。


よし、ここは仲良くなるべく、私が話しかけるんだ!



「あ、あの!」

私が声をかけると、女の子は吃驚して振り返った。

脅かしてしまっただろうか。



茶色く、ミディアムぐらいに伸ばした髪に、可愛らしい幼さの残る顔立ち。


「あ、ごめんなさい。脅かして…。
あのね、私、あなたと友達になりたくて。
あなた、名前はなんていうの?」



女の子は不安げに私を下から見ていた。

人見知りなのだろうか。


少し首を傾けてしまう。
何をそんなにおどおどしているのか。



「……………ふくだ……、福田、琴音……」

小さい声で、しかししっかりと名前を教えてくれた。

嬉しくなって自然と表情が緩む。


「そう…、あ、私の名前、ね…」



なんだかもったいぶったようになってしまった。




























「…私、伊月 華 って言うの。よろしくね!」






















私は琴音にニッコリと微笑む。

琴音は少し緊張が緩んだのか、薄く、笑っていた。

「…よ、よろしく……。伊月さん…」

「もう、伊月さんとか止めて。
呼び捨てでいいよ」

「じゃあ…、は、華……?」

彼女が恐る恐る唇を開いて自分の名前を呼んでくれたのが、嬉しくて可愛らく見えた。

「うん。よろしくね、琴音!」