「……あ、……ゃ…、う………」
恐怖で嗚咽が漏れ出す。
琴音は後ろ手で扉を閉め、ゆっくり、ゆっくりと教室に入る。
「ねぇ」
「ひッ!」
小さく声が出る。
琴音は静かに歩を進めた。
「…美菜ちゃん」
名前を呼ぶその声は高い声だった。
「……今度こそ、美菜ちゃんの番だね」
その声は、低く、冷たく、冷酷で…誰もが恐怖心を抱くような、声だった。
「……!!!」
怖い、彼女がものすごく怖かった。
一歩、また一歩と足を進める琴音。
「……や」
首をブルブルと振る。
「……嫌…」
琴音は私と3メートルぐらい近づく。
「…来ないで!!」
思わず大声をあげてしまう。
琴音の足が止まる。
「……こ、来ないで…!」
息が荒くなる。
琴音は、感情が籠もりもしない瞳で私を見る。
「………」
「……な、何…!?」
「………」
「何よ!!」
「………」
「琴音、あんた、わた、私を、殺し、殺す気なんでしょう!」
「………」
「いいえ、クラスのみんなを殺すって、一体何考えてんの?!」
「……理由は述べたはずよ」
「……は、はあっ。だって…、あれは…」
「あれは何?」
「…っ!?」
「何が悪いっていうのよ!!
私は、私は彼女の為にこの手を汚してまでも、こうしてやってきたの!!
わかる!?あんたにそれがわかる!!?わかるはずがない。絶対!
私は頑張った。私は彼女の為にすべてを捨てた!
すべてを壊す!
みんな……、み、みんなのせい、なんだよ。
みんなのせいで彼女はッ!!華はぁ!!!…」
琴音は取り乱し、声を荒らげて言い放つ。
その瞳は本当に人間のものか、と思うほどに憎悪の色で満ちていた。
まるで獣のように私を睨む。
「…はあ、はあっ、はっ、はっ、はあッ、はあ…、は……は、あぁ………っ…」
琴音は肩で息をし、私を穴が開くのではないかというぐらいに凝視する。
「……まえ、ま…、お前……は…」
琴音は息を整え、静かに切り出す。
「河原 美菜。
お前は、学級委員のくせに、何もしなかった。
何もできなかったじゃない、しなかったんだ!
学級委員という権利を持っているのに、彼女を助けようともしなかった。
だから、だから華は…!!
許さない…!許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…!!
絶対、絶対許さない、絶対に…!
罪人は罰を受ける。法律、だよ。
あははは、あは、はははははははははははははは!!」
狂っている。
この女は、狂気で満ち溢れている。
彼女の為に、狂おしいほどの憎悪を抱き、嘆き、悲しみ、傷つけ、汚し、消した……。
彼女は、琴音は壊れてしまった。狂ってしまった。
そして、壊してしまった。
全部。全部、すべて。
そしてこれから先も、彼女は彼らの罪を狩り、罪を重ね、その手を汚すていくのだ。
「……そう……だね。
私は、華に何もしてあげていなかった。
しようと思わなかった。
それが事実だよ。私は弱い、強くなんか、ない……」
「…は、はは…はあ」
「弱い。だから、怖いよ。
死ぬのが怖いよ。
あなたが怖くてたまらない。恐ろしい。
こんな、こんなことをしても誰も喜ばない。
…彼女も、それを望んではいないよ」

