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朝、教室に入ると私の机の上に植物が置いてあった。
摘み取られたような切り口だが、束になっていて綺麗だった。
「わあ。綺麗なクワ!」
驚いて振り返る。
そこには丸い目をした琴音が立っていた。
「く、くわ……?」
赤い実と緑色の葉が沢山ついたその植物を見て琴音が言った。
「クワ、って…?
なんで?私の机に?」
「『クワ』ってさ、花言葉で、『貴方の全てが好き』っていうのがあるんだよ?」
「え…。何それ?」
「なんでそんな顔するのよう。
素敵じゃない。裏も表もひっくるめて全てが好き、って言ってるのよ?」
「ああ……」
確かにそう思えば、いいかもしれない。
「良かったね!花蓮に好意もってる人がいるってことだよ」
琴音は悪戯っぽく、笑った。
席についた後、逆井が久しぶりに登校してきた。
「あ、おはよう」
「……おはよ」
無愛想だが、ちゃんと返してくれてる。
優しいんだな……。
「ねぇ、花が置いてあったって?」
「え?なんで、知って……」
「っ!、琴音に聞いて……」
「…?うん。机に」
「…………そうか」
逆井は椅子から立ち上がり、ドアの方へ歩いて行った。
「え、どこ行くの?」
「どっか」
「どっかって……」
それから1ヶ月が経った。
クワはあれから度々机に置かれていた。
そして逆井はあれから私に普通に接してくれるようになった。
話す度に胸が高鳴り、顔が熱くなった。
多分、逆井のことが好きなんだろう。
初めてあった時から。
だから、嬉しかった。
とても嬉しかったのだ。
ずっとこんな日々が続けばいいのに。
いつの間にか、琴音のこともすっかり忘れていた。
「そろそろ、いっていいよ」
「本当に、助けてくれるのか?」
「勿論。貴方は味方だもん」
「それは………の?」
「さあ。どうだろうね…」
「いってらっしゃい」
「………」
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「〜♪」
毎日学校が楽しい。
楽しくて仕方ない。
ああ、生活って恋だけで変わるんだ、心底思った。
そんな矢先、
「桜井」
逆井が話しかけてきた。
「うん?」
「後で屋上に来てくんない?」
「え?…うん。わかった」
「…ん。じゃ」
「行くの?」
「…お前、本当に助けてくれんのか?」
「ふふ。大丈夫。
だってあの子は……。いえ、なんでもない。
大丈夫だって。
私を信じて」
「………」
放課後。
少し震える足で少しずつ階段を上る。
胸は階段を上がる度に音を大きくし、緊張してしまう。
今、私はものすごく逆井に期待している。
期待とズレていたら、困るので不安もあるが、期待してしまう。
ついに屋上のドアの前に立った。
一度深呼吸をして、ゆっくり、ドアを開けた。
「…逆井」
「おお。桜井」
屋上の端の方に、逆井は立っていた。
そこまで歩く。
夕暮れがオレンジ色に輝いて綺麗だった。
ちょうど右側の下の方に小さく地面が見える。
意外に高くて若干の恐怖が襲ってくる。
気を取り直して、逆井の方に向き直る。
逆井は照れくさそうに俯いていたが、しばしの沈黙の後、静かに口を開いた。
「…あのさ、言いたいことがあって」
「……うん」
「俺さ、初めてお前に会った時はさ、なんか、変なヤツかと思ってたけど…、変わったんだ」
逆井は儚い瞳で笑った。
静かに私の両肩を掴んだ。
「………桜井のことが、好きです」
涙が零れそうになる。
私もしっかり言わなくちゃ。
「………逆井…」
言いかけて、逆井の異変に気づいた。
逆井が泣いている。
綺麗な瞳から透明な涙が頬を伝って流れている。
「さ、逆井…?」
「…う、くっ……、………華。…ゴメン…桜井、ゴメン……っ」
「どうし……」
視界がぐらっと揺れた。
世界が一瞬で歪んだような感覚。
「え…」
視界がぐにゃりと歪む。
いや、別に何が変わったワケではない。
私は、私と逆井は…、

