教室は急に賑わいとざわつきで溢れかえった。
何なんだこの花は、と。
すると、また女子がひとり、ガタッと音を立てて立ち上がった。
彼女はちょっとオカルト好きの長井聡美だ。
「………トリカブト」
小さく、彼女の口が動く。
「「「……え?」」」
クラス中が揃って声をあげた。
「…トリカブト、っていう、花だ……」
彼女は瞳に恐怖の色を写していた。
肩が小刻みに震えている。
「……な、何?聡美…」
「…はやく言えよ………」
彼女は一度生唾を呑み込むと、目を閉じ、言った。
「……トリカブト。
花言葉は、『貴方は私に死を与えた』、『復讐』……」
一気に寒気がクラス中の人間の身体を伝う。
誰もが彼女の言葉に驚きとショックを隠せなかった。
「…じゃ、あ、伊月が、復讐にくる……とでも…?」
「ヤダ…。怖いこと言わないでよ」
「……だ、だってそれしかないだろ!」
華……?
みんなの持っている花をじっと見る。
トリカブト……。
『…復讐』『貴方は私に死を与えた』…、『伊月が俺たちに…』『復讐…?』『ヤダ…』『だって……』。
会話が頭の中をぐるぐると徘徊する。
その花を見ると、目の前に様々な光景がよぎる。
「……あぁ、……ああ」
汗がだらだらと流れる。
息が荒くなる。
そして、…――――――。
「………琴音」
「――………琴音」
「ッ!?」
い、今……、誰か……。
「琴音」
また。
誰か、誰かが、私の名前を……呼ん…………。
「………………華…?」
小さく震えた声を絞り出す。
辺りを見回すが、華の姿は当たり前ながらどこにもない。
でも、確かな声、華の声が聞こえるのだ。
「……っ」
「……琴音。
私が死んだのは、クラスのみんなのせいなの。
みんなのせいで私は死んだの。
琴音、私の代わりに………」
華の声は小さいがはっきりと耳に入ってくる。
「………みんなを。私の仇を………――――」
そうか。
わかった。
華、大丈夫。安心して。
華の望みは必ず私が叶える。
必ず、
必ず、みんなを…………。

