トーキング・デッド

事務所と直結しているレジに出て急いでカウンター横の扉を開けた俺は、ジュース売り場の前に立っている客に駆け寄った。

背の高い男で黒のロングコートを来ている。少し季節外れな感じ。

俺はとりあえず話かけた。

「あの、お客さん、すみません、困りますよ。その、お会計、まだでしょ?」

「イナカッタカラ、ヒトイナカッタ、オマエイナカッタ、オカイケイ、スレバイイカ?」

男は振り返りもせず低い声でつぶやく。

ヤッベー、変なヤツ来ちゃったよ。と内心思いながらも、俺は言った。

「すみませんねえ。ちょっと事務所にいたもので。会計してくれんすよね。とにかくこっち向いてくださいよ」

無理やり、男の肩を掴んで自分の方を向かせる。

「ひぃ」

そんな声がもれたようなもれてないような。自分でもわからなかった。

とにかく、俺は驚いていた。あきらかに様子が変だ。

浅黒い肌、ところどころ皮膚は溶けたように垂れている。右目は今にも飛び出しそうだ。

俺は数日前に観た。B級ゾンビ映画を思い出していた。

その男、と呼んでいいものか。は、手に持っていたトマトジュースをゴクゴクと飲み干した。

だが、口のまわりが赤いのはソレじゃないことはすでに察知していた。

「血?」

おもむろに肩をつかまれる。口を開ける男。

ちょっと待ってよ。これ何。映画?ゾンビ映画?だったら俺オープニングで死んじゃう、超脇役なわけ?

そんなことを思った。