いきまーす!! はーいっ!! 風を背中から受けて走り出す。 今までにないくらい体が軽かった。 体がスムーズに進む。 そして―――― この瞬間のことは今でも思い出せない。 その前後の記憶ははっきりしているのに。 気がつくと、マットに着地していた。 バーは、バーはどうなった。 落ちて、ない。 スタンドからも、審判からも、 既に試技を終えた他の選手からも、 そしてもちろん滝沢からも拍手が鳴り止まなかった。 酒井周平、自己ベスト、2m06。