「ここって入っていいの?」


西本君が私を引っ張って連れてきたのは、存在さえ知らなかった図書室の奥にある小さな部屋。



「俺だからいいんだよ」


「ふふ、そうなんだ」



ドヤ顔で無茶な言い訳をする西本君に、私は少し笑ってしまった。




「ここは俺がよく来る隠れ家」


「隠れ家?」


「そう。なにもかもうざくなった時、ひとりになりたい時に使うんだよ」



そういいながら、まるで自分の部屋にいるかのように慣れた動きで、西本君は隅に置いてあるソファに座った。




「西本君って、幸せそうで不服そうだね」


私がそんなことを言うと当の本人は一瞬びっくりした顔をして、そのあと軽く笑った。



「なんだよそれ」



「いや~…。いつも誰かに囲まれて人気者で、不自由なんて無さそうなのに…」



「合ってるよ。不自由なんてない」



「うん、でも。……でも、幸せでもないでしょう?」




西本君と話す機会なんて今までなかったし、どんな人なのかも想像でしか知らなかった。


容姿端麗だし人気者。きっと毎日が楽しくてキラキラしてて不自由なんてなくて、幸せな日々を送っているんだろうな~みたいな軽い感じでしか考えたことなかった。


でも、今こうやってかかわる機会があって話したり一緒に行動したりしてわかった。




この人もどこか欠けてる人―――。