「俺は千景でいーから」
また歩き出した西本君は、不意にそう言った。
「えっ」
手はまだ繋いだまま。
「なに?」
「千景って…そんな…」
女子の暗黙のルール。
西本千景と親しい人じゃないと、「千景」と呼んではイケない。
私まだ喋って二日だよ!!
「無理!それは呼べないっ」
「なんで」
私が断固反対するものだから、西本君の機嫌は少し悪くなった。
「…あ、ごめん。そのー…まだ慣れないし、西本君、で」
「どーせ彼女だって、知れ渡るんだから良いだろ」
「……」
そっか…。
私と西本君は今日から彼氏彼女なんだ。
契約上の彼氏彼女だけど、みんなはそんな事知らない。
色々とややこしくなりそうだなぁ
なんて、どこか上の空で考えていた。

