「……そうだね」
過去は消せない。
だけど、ただ、一緒にいたい。
「もう、そんなんじゃなくて……ただ、幸せになりたい」
俺の言葉に、かなめも笑った。
「うん」
「かなめ」
俺がかなめの唇に触れたとき、下階で物音がした。
かなめが、怯えたように俺の手を握り締める。
自分を許せなかったのは、俺がかなめを傷つけたと思っていたから。
誰よりも大切なかなめを傷つける者は、何者だとしても許せなかった。
だけどかなめは、自分は傷つけられていないと言った。
だったら俺も、言わなくちゃいけない。
俺だって、かなめに傷つけられたことなんか、ない。
かなめがついた嘘だって、俺は受け入れられる。
「ただいま」
母さんの上機嫌な声が聞こえてきた。
かなめが唇をかみ締めて、俺の手を強く握る。

