「久しぶり」

 驚きから立ち直った有紀が、俺に笑いかけてきた。
 俺は、その笑顔に恐怖にも似た感情を覚えた。

「翼、大丈夫?」

 蒼白になった俺に、ほのかが心配そうに声をかけてきた。
 俺はそんな彼女を制して、

「ほのか、今日は一人で帰れ。俺は、こいつと話があるから」
「……うん、わかった」

 ほのかは気がかりそうに俺達を見、そして帰っていった。

「今の、彼女?」

 有紀が話しかけてくる。
 自分で話があると言いながら、俺は何を話していいかわからずためらってしまう。
 そんな俺の様子に、有紀は悲しそうな笑顔を向けた。

「向こうに、落ち着いて話せる場所がある。向こうに行こう」
「……ああ」

 有紀に促されるまま、俺達は工学部校舎の裏側にある公園に向かった。
 一つの机を選んで、有紀が座る。俺も有紀と向かい合わせになるように座った。

「久しぶりだな」
「ああ、久しぶり」

 本当は、こうやって、のどかに会話できるような関係ではない。
 俺は、有紀が愛してやまなかった最愛の妹を傷つけたのだから。