狂奏曲~コンチェルト~


 しかし、何度考えても思い出せない。
 どうして俺はあんなに急いでいたんだろうか。
 いつもなら、信号の色がわからなかった俺は、周りを見てから道路を渡ったはずだ。
 自殺をしようとしたのかと、母さんにも聞かれたが、そんな気はしないんだ。
 ただ酷く急いでいたということだけ、覚えている。

 ふと光った携帯電話。
 確認すると、有紀からだった。

『元気か?』

 何気ないメールをこまめにくれる俺の親友。
 有紀は、かなめちゃんという妹を溺愛しているシスコンだ。
 シスコン有紀は、かなめちゃんが男に接触するのを極端に嫌っていたせいか、俺はかなめちゃんをよく知らない。
 いつも有紀が俺とかなめちゃんが会うのを拒んでいた気がする。

『おう、元気だ。そっちはどうだ?』

 携帯をいじりながらふと目に付いたのは、ストラップだった。

「…………」

 シルバーの俺の携帯を彩っているビーズのシャチ。
 俺はそれをなぞった。