「沢山教授ってば、レポート多すぎる」
「それが学生の本分だろうが」

 俺は呆れたようにつぶやいた。

「うるさいな。面倒くさいものは面倒くさい」

 ほのかと並んで、キャンパスを歩く。

「翼はずるい。ぼんやりしてるくせに、いつも優なんだから」
「翼……?」

 すれ違い間際に、男の驚いたような声が聞こえた。
 それが俺の名前を呼んでいたので、俺は立ち止まった。

「……有紀?」

 振り返った俺は、目を見開いて立ち尽くしている男を見た。
 それは、有紀だった。

 驚愕に、言葉が出ない。
 それは向こうも同様だったようだ。
 ほのかが困ったように、固まってしまった俺達を見比べていた。

「お前……この大学に通ってたのか?」

 有紀が、かすれた声で言う。

「そっちこそ……」

 俺はまじまじと有紀を見た。
 あの頃より、少しだけ大人びた顔立ちになっていたものの、有紀は有紀だった。
 髪も長くなっていて、背も少しだけ伸びているようだ。
 俺に色が見えていれば、あの髪はかなめと同じ、茶色なのだろうが、俺には黒くしか見えなかった。