狂奏曲~コンチェルト~


 だけど……。

「お兄ちゃん……」
「うん?」

 ドア越しに返事がある。

「つばちゃんは……過去から解放されたのかな?」
「…………」

 お兄ちゃんは、何も言わなかった。

 私のことを忘れて、色覚障害も、若年性白髪もなくなったつばちゃん。
 つばちゃんは、私との過去も忘れているはず。
 そうだとしたら――おばさんの言うとおり、私の存在はただつばちゃんを苦しめるだけなのかもしれない。

「私のせいで……つばちゃんは、苦しんでいたんだよね」
「……かな……」

 私は、つばちゃんをたくさん傷つけた。

「つばちゃんは……私がいない方が幸せになれる……?」
「っ……」

 つばちゃん……
 貴方は、五年間もこんな想いを抱えていたんだね。
 忘れられてしまうことが、こんなにも辛いことだったとは――。
 つばちゃん、今まで苦しめてごめんなさい。

 私には、貴方に謝るチャンスも与えられないんだね……。

 結局、私は一睡もできなかった。
 つばちゃんのことを想って、涙し――そして、行き場のない謝罪を繰り返していた。