「俺……急いでて、信号きちんと確認しなかったみたいだ……」
「……車にも気づかなかったのか?」
「みたいだ……」

 お兄ちゃんもせわしなく私に視線を向ける。

「つばちゃん……?」

 呼びかけても、つばちゃんが反応しない。
 おばさんも、訝しげにつばちゃんを見ている。

「翼、本当に色がわかるの?」
「ああ……今まで見えなかったのが……嘘みたいだ」

 おばさんが、つばちゃんを抱きしめる。

「翼、お前、黒い髪が生えてきてるぞ」
「本当か……?」

 つばちゃんが自分の髪を触る仕草をする。

「あれ……俺、坊主だ」
「つばちゃん、頭の手術をしたんだよ」

 まただ。
 私が何を言っても、つばちゃんは私を見ない。
 なんで……?

 情けなくなって、涙が目に溢れるのがわかった。

「翼、とにかく検査受けましょう」
「……ああ」

 私は、無視されるのに耐えられなくなり、痺れを切らしてつばちゃんの前に飛び出した。