ほのかの眉が下がる。

「翼、髪の毛黒く染めれば良いのに……」
「面倒くさい。どうせ、こうなるんだから」
「…………」

 しょんぼりとほのかが肩をすくめた。

 ストレスからか、中学を卒業した頃から白髪が増え、現在は生えてくる髪のほとんどが白くなっていた。黒い髪の毛もところどころ残っているため、灰色に見える。


 あの日の出来事は、俺を雁字搦めに縛りつけていた。

 心因性のストレスからくる、あらゆる症状。
 色覚障害と、若年性白髪。鬱にも似た虚脱感。

 それでも、俺はかなめを忘れられない。
 否、忘れてはいけないんだ。




 俺が前に進めていないから、ほのかも俺のそばを離れないんだと思う。
 五年も経ち、ほのかはずっと綺麗になった。
 俺が知る限り、たくさんの男がほのかに声をかけているが、彼女は全てを断っているらしい。
 そして、その理由は俺だということも、俺はもうわかっていた。

 俺も、あの頃より背が伸び、体だけは成長した。
 だが、心はやっぱりあのときのまま、止まっている。
 人より目立つ風貌のせいで、俺もいろんな女達に声をかけられる。
 だが、灰色のレンズを通してみた彼女達は、みんな同じに見えた。
 能面のような、人形のような彼女達。
 吐き気がした。