狂奏曲~コンチェルト~


「翼は、かなめを責めてなんかいない」
「でも、私のせいじゃない」

 全部、そう。
 何もかもを狂わせたのは私。
 つばちゃんの人生を狂わせたのも、私だった。

「……それなら」

 ほのかは、妙に穏やかな声を出した。

「もう、忘れた方がいいのかもしれない」
「え……?」

 私はほのかを振り返った。
 決然としたような、そんな顔。

「気づいてるんでしょ?」

 ほのかの言葉に、私が気づかない振りをしたものに、彼女も気づいたことを知らされる。

「翼の髪、黒いのが生えてきてた」
「…………」

 一度剃られた髪。
 だけど、二、三日して少し髪が生えてきていた。
 5ミリにも満たないほどの髪だったけど、色を判別するには十分だった。

 その髪は、黒かった。

「翼が事故に遭う前に何を考えていたのかは、あたしにはわからない。だけど……もう、忘れた方がいいのかもしれない。貴女も、あたしも」

 もしも、つばちゃんが何もかもを投げ出して事故に遭ったとしたら。
 私のことを諦めて――過去を清算しようとして事故に遭ったとしたら。
 そうだとしたら、つばちゃんは過去からすでに解放されているのかもしれない。