狂奏曲~コンチェルト~


「ほのかは、つばちゃんのことが好きだっただけだよ」
「かなめ……」
「そして、私も……。何でこんな風になったか考えても……きりがないよ」

 私がつばちゃんと付き合わなければ。
 私がつばちゃんと再会しなければ。
 私がつばちゃんを忘れなければ。
 私がつばちゃんに嘘をつかなければ。
 私がつばちゃんと出会っていなければ――……。

 そんなことを考えても仕方がない。

 私はつばちゃんと出会って、つばちゃんを好きになって、つばちゃんを傷つけて、そして今があるのだから。

 ほのかが立ち上がって私に椅子を譲った。

「座って」
「ありがとう」

 私はほのかの言葉に甘えて、つばちゃんの隣に座る。そして、ぎゅっとその手を握り締めた。



「翼……っ!」

 血相を変えた女の人が部屋に飛び込んできたのは、私が部屋に来て三十分ほど過ぎてからだった。
 顔を上げた私はその女の人を見た。
 見覚えがあるその人は、覚えているときよりもずっと疲れて、年を取ってしまったように思えた。
 つばちゃんしか見えていなかった彼女と、私の目が合う。

「……貴女……」

 信じられないものを見るような目で私を見たおばさんは、息を呑んだ。
 私は立ち上がって頭を下げた。