あれから、五年の歳月が過ぎた。

 一度失われた色覚は戻ることなく、俺は未だに灰色の世界を生きている。


 あの日、かなめは誰に犯されたのかを覚えておらず、そして有紀だけが真実を知っていた。
 有紀はそれを、両親には言わなかったらしい。

 大切な妹を壊した俺を、有紀は咎めなかった。


 この五年、罪悪感は消えることなく俺の中でくすぶっていた。
 贖罪の十字架を背負った俺は、淡々と毎日を生きていた。

 自殺、という選択肢はなかった。
 かなめが過去を背負って生きていく限り、俺は罪を背負って生きていくつもりだったからだ。

 灰色の世界で、かなめだけを想いながら、俺は何も変わらない毎日を生きている。



「翼、授業遅れるよ。沢山教授は厳しいんだから」

 ほのかが、俺の手を引きながら言う。

 ほのかは、俺と同じ高校、大学を選んで進学した。
 この大学は地元からずいぶん離れている。
 彼女が俺に好意を抱いていることは間違いない。
 だがそれでも、俺は彼女の気持ちを受け取ることはできなかった。

 俺が愛しているのは、かなめだけ。
 色のない俺の世界で、かなめとの思い出だけが鮮やかに色づいている。

「もう、翼ってば」

 通りすがる学生達が、俺を振り返る。
 俺はそれをぼんやりと眺めていた。