「違う、きっかけは……かなと翼が付き合ってたからだと思う。一緒にいるうちに、昔の記憶が刺激されたからだと……」
お父さんの目が、極限まで見開かれた。
「付き合って……いただと?」
「ああ」
お父さんはお兄ちゃんの胸倉を掴んだ。
「あなた、やめてっ」
「お父さん!」
「お前はっ! 何もかもを知っていながらそれを許したのか!」
そう叫ぶお父さんの声は、私が今まで聞いたことのないような怒りに満ちたものだった。
「翼君が、あいつが、かなめに何をしたか、お前は知っていたんだろう!」
「俺は全部知ってた!」
お兄ちゃんも負けじと怒鳴り返した。
「かなの気持ちも、翼の気持ちも、全部知ってたから許したんだ!」
「ふざけるなっ」
「やめて!」
今にもお兄ちゃんを殴り飛ばそうとしたお父さんだけど、私の叫びにぴたりと動きを止めた。
「つばちゃんは悪いこと何もしてない!」
「かなめ?」
私は、お父さんを睨みつけていた。
誰であろうと、あれだけ苦しんでいたつばちゃんを責める人を、私は許さない。
「あれは、私が悪かったの。つばちゃんは、私のせいでずっとずっと苦しんでた」
お母さんが、私をなだめるように抱きしめる。
「私がつばちゃんを苦しめてたんだよ! 私は全部忘れて……っ」
「かなめ……」
お父さんが、ゆっくりとお兄ちゃんを離した。

