狂奏曲~コンチェルト~




「かなちゃん……?」

 泣きじゃくっていた私は、お母さんが呼びかける声で顔を上げた。

「晩御飯、食べましょう?」
「今、行く」

 ドア越しに遠慮がちに言うお母さんに、涙をぬぐいながら返事をした。
 衣服を整えて、リビングに下りると、珍しくお父さんが早く帰ってきていた。
 お母さんとお父さんが、私の顔を見て目を見張った。

「かなちゃん……どうしたの? 泣いてたの?」

 料理を置いて、お母さんが慌てて私に近づいた。

「どうしたんだ、かなめ?」

 事情を知っているお兄ちゃんは黙っていたけど、お父さんも驚いたようだった。
 俯いて食卓についた私は、ぽつりと呟いた。

「……つばちゃんが、事故に遭った」

 私の言葉に、食卓の空気は凍りついた。
 お父さんとお母さんが、信じられないものを見るように私を見る。

「かなめ……お前……」
「つばちゃんが私のせいで事故に遭ったっ」

 私はお父さんの言葉をさえぎって叫んだ。

 つばちゃんは、私のせいで、事故に遭ったんだ。

「お前、思い出したのか、翼君のこと……」
「父さん、翼は俺らと同じ大学に通ってたんだ」
「何……?」

 お兄ちゃんの言葉に、お父さんの顔色が変わる。

「それで……かなが二年になったころ、再会した」
「再会したから! 思い出したのは!」

 お父さんが、怒ったような声を出すので、私はびくりと体を震わせた。