狂奏曲~コンチェルト~


 冴島さんは、呆然とつばちゃんを見つめている。そしてそれはお兄ちゃんも一緒だった。

「……すみません」

 一人の看護師さんが近づいてきた。

「この方のご家族と連絡が取れないのですが、連絡先など教えていただいてもよろしいですか?」
「あ、あたし、わかります」

 冴島さんが、看護師さんの差し出した用紙を埋めていく。

「二階堂翼さん、ですか。ありがとうございます」
「身元がわかるようなもの、持ってなかったんですか?」

 お兄ちゃんの問いに、看護師さんは困ったように、

「はい。事故の目撃者の方が、もしかしたら同じ大学の人かもしれないと言っただけでしたから……」
「そうですか」
「それでは失礼します」

 私は看護師さんが去っていく後姿をぼんやり眺めていた。


 身分がわかるようなものを持っていなかったつばちゃん。
 そして車に跳ねられたつばちゃん。
 自殺じゃないと、信じたい。
 だけど、つばちゃんが悩んでいた日々を思うと、そう言いきれない自分がいる。
 そして、つばちゃんを追い込んだのは、私だ。

「本郷さん……」

 冴島さんに呼ばれて、私は顔を上げた。