「お前何やってる!」
「放せええええええっ」
「翼!」

 有紀が、暴れる俺を組み敷いた。
 その瞬間、抵抗する気力が失せ、ばったりと体の力を抜いた。

「お前……なのか?」

 有紀が震える声で俺を見下ろしていた。

「かなを……あんなふうにしたのは、お前なのか?」

 俺は、何も言わずに、ただ涙を流した。

「翼、お前……」
「愛してるんだ……」

 有紀が、苦痛に顔を歪ませた。

「俺がかなに何を訊いても、かなは覚えてないって言ってる」
「…………」
「ふらふらして、真っ青になりながら、誰にやられたかもわからないって言ってる」

 有紀の言葉を、ただ聞き流すように聞いていた。

「かなを泣かすなって言っただろうが!」

 有紀は、力いっぱい俺を殴りつけた。
 俺は、抵抗もせずにこぶしを受け入れていた。

「ふざけんなよ……っ」

 有紀は、悔し涙を浮かべていた。

「ふざけんなっ!」

 そう言い残して、有紀は俺の部屋から出て行った。