狂奏曲~コンチェルト~





 翼に笑えって言われたとき、なぜか胸が苦しくなった。

「…………」

 私を見ていた翼が、どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな違和感。

「翼……」

 どうしてだろう、幾度となく呼んだその名前が、しっくりこないのは。
 二階堂さん、翼君、翼――いろんなふうに呼んだけど、何かが違うような気がする。


 窓の外を眺めていたら、ノックの音がした。

「はい?」
「かな、ちょっといいか?」
「うん、いいよ」

 お兄ちゃんが部屋に入ってきた。

「どうしたの?」
「いや、最近どうだ、翼とは?」

 今朝の翼の悲しそうな顔が頭をよぎって、とっさにお兄ちゃんの言葉に答えられなかった。

「……別に、変わりはないよ」
「そうか」
「なんで?」
「いや……」

 お兄ちゃんは少しだけ寂しそうに、

「ちょっと、な……」

 お兄ちゃんは笑って、

「大丈夫ならいいんだ。それじゃあ、お休み」
「おやすみ」

 何が言いたいかわからなかったけど、お兄ちゃんはそのまま行ってしまった。


 その日、夢を見た。
 なんだか、とても懐かしくて、切ない夢。
 夢を見たはずなのに、目を開けた瞬間、忘れてしまった。

 私は、夢の中で誰と一緒にいたんだったんだろう……?