嘘つきと夏の木漏れ日

私は少し潤った唇を開いた。


でも何を言っていいか分からずに、また強く口を閉じた。

高田くんが言った『今更』という言葉が、耳の奥に引っかかってなかなか消えてくれない。


そんな私のかわりに高田くんが口を開いた。


「俺ずっと分からなかったんだ。沙紀ちゃんがどうして今更来たのか。今までここに一切、来てなかったのにおばあさんからの手紙に書かれていたからって普通来ないよ」


高田くんはそう言って、チラッと部屋の隅に置かれた写真を見た。


その視線の先にあるのはおばあちゃんの写真だ。


私も虚ろな瞳でその写真を眺める。


目を細めて優しそうに微笑むおばあちゃん。


確か死んでしまう2週間前の写真だ。


健康そうな肌の色。


少し太った体。


この写真から見たおばあちゃんはあと何十年も長生きしそうに見える。


でもおばあちゃんは死んじゃった。