あれから何の会話もなく、うとうとしながら朝をむかえた。
閉め切ったカーテンの隙間からチラチラ光が漏れている。

……長い時間だった。

溜め息をついてふと、市ヶ谷に目を向けると奴は膝を抱えたまま俺を直視していた。
目が合ってゾクリと身がすくむ。

「朝までよく頑張ったね……」

「……別に」

ゆっくり市ヶ谷が立ち上がると俺は目で奴の動きを追った。

奴は本気で俺の借金を肩代わりしてくれるんだろうか、そんな事よりも奴の条件がいまいち理解できないままにのんでしまった。

カーテンを開くと間もなく市ヶ谷はキッチンに立ちコーヒーを入れ始めた。

「もう少ししたら出掛けようか。君にも立ち合って欲しいしね」

「……出掛ける?どこに?」

「コンビニだよ……」


コポコポとコーヒーメーカーが音をたてる。
辺りにコーヒーの匂いが漂い始めた。

「飲む?」

コーヒーの注がれたカップを受け取り、市ヶ谷が口にしたのを確認してから俺も口付ける。
市ヶ谷に出されたコーヒーは俺の舌には苦く感じられた。


「出かけるよ。ついて来て」


コーヒーを飲み終えしばらくすると市ヶ谷に言われるまま俺は立ち上がり部屋を後にした。

部屋を出ると太陽が眩しいほどに俺達を照らした。
排気ガスや二酸化炭素の溢れた空気でも市ヶ谷の部屋の空気に比べたらましな気がする。