香りも背中も、私の心を揺さぶるには充分すぎる刺激だ。

温もりすら感じるこの距離感も。

私は、さっきもらったFRISKをポケットから取り出した。

反省する意味も含めて、この頭を一旦冷却するにはこれが最適なのかもしれない。

けど、加速する一方の自転車の後部で、掴まらずに両手を使うのは至難の業。

バランスとればいけるかな?

ふっ、と、お腹に力を入れてサドルから手を離した時。

「あっっっ」

グランっと自転車が揺れて体が傾く。

「ちょ、里花っ」

気づいた長谷川大樹が慌てて、落ちそうになった私の手を掴んだ。

そして、キーッとブレーキをかけて振り向く。

「どうした?掴まってなかった?」

「えっと、FRISK食べようかと思って」

「今?」

「はい」

確かに、なぜ今?と思うのはごもっともで。

でも、今冷却しないと、走り出す自転車と一緒にいろんな感情が絡まったまま加速してしまいそうで怖くて。

「んじゃあ、まず食べて」

「はい」

私は1粒取り出すと口に放り込んだ。

「そしたら、手はここ。これなら両手使えるだろ?けど危なかったら言ってよ、止まるから。次もし落ちそうになったら、また前でこがせるよ?」

そう言って、長谷川大樹は私の右手を彼のお腹に回した。

こ、これは。

横向きで、後ろから彼を抱き締めてる状態。