「ね、ね?カッコいいね」

ベースの彼に夢中な友里亜の隣で、私はボーカルの彼から目が離せなくなっていた。

喉だけじゃなくて、全身で歌ってる彼に。



数分で、こめかみから流れ始めた彼の汗。

たまに腹筋を痛め付けるみたいに、苦しそうに前屈みになって声を振り絞る。

叫んでるみたいに全身から力を吐き出して。

そして、吐き出した後にスーッと息を吸い込み。

悲しげに問いかけるように、静かな声を向ける。

まるで、おねだりしてるみたいに。

まるで、甘えてるみたいに。

思わず、大丈夫だよ、って守ってあげたくなってしまう。

震える胸を、私は必死で抑えていた。

それでも容赦なく降り注がれる歌声は、私の鼓膜を突き破り、体の芯に入り込む。

「だいー!!」

「だいちゃん!!」

そう呼ばれる彼は、その声に見向きもせず歌い続ける。

無視してるわけじゃない。

聞こえないんだ。





それほどに全力で歌う彼の姿は汗は、体は声は、誰よりも輝いていた──。