「里花、授業は?」

「大樹こそ、授業は?」

ふふっと笑って、私達は手を繋いで階段をかけ上る。

あの山がいい感じで色づき始めたのは知ってる。

それで、この時間だとちょうどこの学校の頭上の航路を飛行機が駆け抜ける。

そして、雨上がり。

さっき窓から見上げた空には、うっすらだけど虹が顔を出していたんだ。

大気の湿度が高く不安定な時に飛行機雲が表れやすいっていうのは、この間彼がスマホで調べてた。

だから。

ねぇ、私達の約束、果たせるかな?

紅葉と虹と飛行機雲のコラボ、一緒に見れるかな?

秘密の鍵を差し込む。

開いたドアの向こうから、一気に爽やかな風が吹き込んできた。

少し伸びた私の髪が舞い上がり、隣からの甘い香りが鼻先をかすめる。

お母さんはまだ、ダウニーを愛用してるらしい。

そのお母さんは先週長谷川ヒロコさんになった。

そして、その日、大樹は自転車を修理に出したんだ。

空で眠るお母さんが買ってくれた自転車なんだって、その時初めて教えてくれた。

お母さんの病院に行く時に壊したギアチェンが、自分への戒めだと考えていたことも。

修理されて戻ってきた自転車は妙にピカピカで、恥ずかしいって大樹は照れてたけど。

でもそれは、1度壊れかけた長谷川家の再出発を表すようで、私はこの先の彼の進む道までもピカピカに照らされてるように感じた。

傷は綺麗に直されても、思い出はちゃんと残ってるよねって言うと、大樹は嬉しそうに微笑んだ──。