Bloom ─ブルーム─

また、ふと手を離せば簡単に遠くに行ってしまいそうな気がして、握られただけだった手を握り返してみた。

そしたら同じように握り返してくれる、大きな手。

「あの、先輩?」

「うん?」

「もう少ししたら、あの山が紅くなるんですよね?」

私は手すりの向こう側にある、空との境を指差した。

「うん」

「そしたら、私も一緒に見ていい?」

なくした切符を、もう1度拾ってもいいかな?

紅葉と虹と飛行機雲のコラボ、見れるかな?

「当たり前だろ?約束したじゃん。雨上がりを狙って来ないと」

「そしたら、ここで先輩の歌を聴きたいです。1度だけでいいので、私の為だけに……とかって、ダメ?」

言ってから気づいた。

またひとつ欲張りになってる私。

こんなお願い、図々しいかな。

でも、たった1度でいい。

誰の為でもなく、私の為だけに歌ってくれたら、もしも先輩が遠くへ行ってしまったとしても、私の心にきっと残るから。

先輩の見つけた景色を目に焼き付けて、先輩の声を心に焼き付けておきたい。

いつの日か、彼の声を、スピーカーを通さないと聴けなくなってしまっても、忘れないように。

なんて。

もしかしたら先輩が遠くへ行くよりも早く飽きられて振られちゃうかもしれないけど。