Bloom ─ブルーム─

大樹先輩が口を開いた時、健さんはナナさんの背中をポンと押した。

その勢いでつまづきそうになる彼女を、咄嗟に抱き留める大樹先輩。

そして、ナナさんの体勢を整えようとしたその時、彼女は大樹先輩の胸の中に飛び込んだ。

「もう、やだよ。すれ違いばっかり。そんな想いをするのは、もうやだ」

「ちょ、ちょっナナ?」

「やだよ」

ナナさんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた時。

「……ナナ」

宙を泳いでいた大樹先輩の手が、ナナさんの背中を撫でた。

大樹先輩の、そんな優しい目を、初めて見た気がした。

それを見届けてステージを降りる健さんは、人混みを掻き分けてあっさりライヴハウスを出て行ってしまう。

こんな仕打ちしといて、1人で逃げるなんてずるい。

「り、里花……」

かける言葉に迷ってる友里亜は心配そうに私を見つめる。

「健さん、チョーいじわるなんですけど。ははは」

もう、笑うしかないじゃない。

「喉、乾いたから、なんか買ってくるね」

ひどく嘘くさい嘘をつくと、私も健さんの後を追いかけるように、出入口に続く階段をかけ上った。

「──……花っ!!」

かなり重症だ。

こんなときでも、大樹先輩の、私を呼ぶ声が聞こえちゃうんだから。

ナナさんを目の前にして、私なんかを呼ぶはずないのに。

「里花!」

すぐに友里亜の呼ぶ声がして、さっきの空耳は友里亜によるものだったのかと気づく。

それでも、振り返ることができなかった。

失恋から始まった恋にも、ちゃんと終わりがあるんだって、改めて知った。

それで、半端ないこの胸の痛みは、予想以上に大きくなりすぎていた大樹先輩への気持ちなんだと思い知った。