Bloom ─ブルーム─

私の足は勝手に後退りしていた。

答えなんか聞きたくない。

「逃げるなよ、里花」

健さんはそんな私を見逃してもくれなかった。

「大樹の答えをちゃんと聞いとけ」

健さんの視線を追って、ナナさんがチラッとこっちを見下ろしたのがわかった。

「大ちゃんは誰のものにもならないし!」なんて女の子の声があちこちから聞こえる。

答えを聞きたくないのは、私だけじゃないんだ。

みんなオモチャだと思ってるなんて勘違いしてた大樹先輩だったけど、本当はモテモテなんじゃん。

男性陣の観客は面白そうに野次を飛ばしたり、答えを急かしたりしてた。

迷っていたナナさんは友達に押されながらゆっくり前の方に進むと、ステージの手前で足を止める。

気づいた健さんがその手を引いて彼女をステージに上げた。

大樹先輩の隣に立つナナさん。

ヒールのせいか、大樹先輩より少し背が高い。

それでも、キレイに着飾って化粧された彼女は、ステージに立つ大樹先輩によく似合っていた。

飾らないで来た自分が急にひどく惨めに感じられる。

「私……今朝、健から電話をもらって。ライブに誘われてずっと迷ってたの。健に会いたいって言ってもらっても、私は大樹君に会えるかもしれないって、そればっかり考えちゃってた」

健さんが悲しそうに2人から顔を背ける。

「ずっとね、忘れられなかったの。本当は卒業式の時に手紙を渡すつもりだったんだけど、女の子に囲まれてる大樹君見つけて、渡せなくて」

「手紙?」

大樹先輩が聞いた。