Bloom ─ブルーム─

健さんは掴んでいた手を放すと

「ナナ、お前はどうしたい?こいつが、俺の気持ちに遠慮してナナを振ったんだとしたら」

客席に向かって話しかけた。

「俺は、大樹がどう思おうと、今でもナナが好きだけど」

私の後ろが急にひんやりしたように感じた。

「そんなこと……言われても」

動揺してる風なナナさんは、「ほら、大樹君とこ行きなよ」って、友達に背中を押されて、私より1歩前に出る。

再び視界に入り込んできた、ナナさん。

柔らかそうな長い髪に隠れて表情が窺えないけど、髪の隙間から覗く肩がひどく華奢だった。

ラーメン完食出来ないんだろうな……なんて関係ないことを考えてしまう。

「やめろよ、こんなとこで」

大樹先輩は立ち上がって、健さんを制した。

「こんなとこじゃなければどこで話すんだよ?結局俺のいないとこでいろんな話が進んでくだけだろ?

どうせならみんなに見られて振られた方が諦めもつくよ」

それは、健さんの勝手な言い分。

こんな大勢の観客の前で答えを出すなんて、大樹先輩にとってイエスでもノーでも苦しいはず。

ナナさんのプライドを傷つけて振れるわけないし。

健さんを目の前に、ナナさんの手を取ることだって簡単じゃない。

そして、もし、私の気持ちに気づいてたとしたら……。




もしかしたら、答えを一番恐れているのは、この私なのかもしれない。