Bloom ─ブルーム─

友里亜みたいにふわっとは笑わないけど、確かに可愛いその人は、恥ずかしそうにステージを見つめる。

彫りが深いとか、パーツがハッキリしてるとか、そういう美人とは違うけど、透明感のある可愛らしさを待ち合わせていて。

すっきりした顔立ちに笑顔がよく似合っていた。



もう振り返ることはしたくないし、出来ないけど、ナナさんとステージに挟まれた私はもう笑えない。

多分、ナナさんは大樹先輩だけを見つめているんだろうし、健さんはナナさんだけを哀しそうに見下ろす。

大樹先輩はもう私を見ないし、その声はもう、私の為のものではない。

歌だけに集中するように、客席全体へ視線を向けることさえ避ける彼。

その仕種がよけいに、ナナさんを意識しているみたいに見える。

さっきまでの捧げられた歌に対する喜びが、ガタガタと崩れていった。

ナナさんを挟んで、揺れ動く想いと想い。

それでもぎりぎりのとこで繋ぎ止め、なんとか全員が何事もなくやり過ごせるかと思えていた時。

それを打ち破ったのは、健さんだった。

健さんは突然挑発的な表情をすると、ボーカルを無視して前に出た。

そして大音量で声をかきけすように弦を弾き始める。

それは、ナナさんに対する当てつけか、大樹先輩に対する嫉妬か。

曲の流れがガラッとわる。

ベースとドラムが怪訝な顔をした。

「ちょ、健、でしゃばりすぎー!」

前列の女の子達がやじを飛ばす。

でも一向に止める気のない健さん。

ついに、健さん以外の3人が演奏を続けられなくなってしまった。

それをいいことに、健さんはギターソロを見せびらかす。